白雪姫 U











白雪姫の言葉に、俺とシロウサギは城の中へと入る。
中はとても綺麗で廊下の壁にかけてある絵にも埃一つ被ってはいない。



何分か歩いた頃、白雪姫は大きな扉の前で足を止めた。





「ゆっくりしていってください」





扉が開くと、中には沢山のお菓子や紅茶で一杯だ。
金で出来ていると思われる椅子に腰掛けて目の前にある料理を見つめて見る。


白雪姫は俺が渡した書類に目を通しながら紅茶を飲んでいた。





「シロウサギさん、今度の姫会合は一体誰が来るんですか?」





突然、皺枯れた声が響いたかと思うと白雪姫の母親が部屋に入って来た所だ。
隣には王冠を被っている男を連れている。
恐らく王子だろう。




「アリス様と女王様は勿論、シンデレラ様、ビューティア様、ジャスリン様、オーロリア様、そして…」
「白雪姫というわけですね」




その言葉に頷くと、シロウサギは人参を口に運んだ。
流石、ウサギ。
人参がやっぱり好きなんだ。




「今度の姫会合もやはり、イカレ帽子屋さんが紅茶などを用意してくださるんですか?」




白雪姫は満面の笑みを浮かべながら言った。
余程、イカレ帽子屋が作る紅茶が美味しいのだろうか。




「はい、彼の紅茶は人気ですからね。アリス様も女王様も彼に頼む予定だと言っていましたよ」
「まぁ!楽しみだわ」





キャッキャと年頃の女の子に笑う白雪姫の姿は、まるで何処にでもいる少女だった。
それを横目で見た白雪姫の母親は口を開いて白雪姫を嗜める。

そういえば、童話の白雪姫では確か母親が白雪姫を毒林檎で殺そうとするだよな・・・。
なんで、この二人は仲がいいのだろう。





「あ!シロウサギさん!私、お母様と仲直りしましたの!」
「ほぅ、それは良かったです。白雪姫様、お母様」





俺の疑問を解消してくれたのは、他でもない白雪姫だった。
仲直りってことは、以前は仲が悪かった・・・ってコトでいい筈。

俺は手に持っていた紅茶を一気に飲み干すと隣にいるシロウサギを見つめる。
俺の視線に気づいたようでシロウサギはフワリと微笑むと、席を立った。





「さて、我々の仕事も終わったようですし、今日はこれで失礼いたします」
「え?もう、ですか?」
「はい。女王陛下が待っております故」




ペコリと頭を下げるシロウサギに見習って頭を下げる。
その時、酷く残念そうに眉を下げている白雪姫を見たが仕方が無いことなので諦めてもらおう。

紅茶を片づけるメイド達を見ながら、俺とシロウサギは『ホワイト・スノウ・キャッスル』を出た。





「また、お会いしましょう!!」





そう言いつづけている白雪姫の声をBGMに










*******











同時刻、暗い暗い闇広がる空間に一人の少年が現れた。
真っ黒なウサギの耳に、真っ黒なコート。

手には反時計回りで動く懐中時計を持っている。





「My.LORD(我が主)!只今、帰りました」




少年は綺麗なソプラノの声で言うと、懐中時計を宙へと掲げた。
その瞬間、暗闇だった空間に光りが射す。

よくよく周りを見てみれば、黒で統一されたカーテンやテーブル。
灰色のソファなどがあった。





「残念だけどー、主様はいないッスよ?」





そう言葉を発したのは黒と灰色の縞模様がある耳を携えているネズミ少女だ。
少年は「っち」と舌打ちをすると近くにあったソファに体を沈める。

ネズミ少女の方はクスクスと笑いながら、コーヒーの入っているカップを手にとった。





「主様は一体どちらへ?」
「うーん?多分、例の子にアタックしていると思うッスよ。あの子、可愛いし僕等には必要不可欠な存在だしね」
「俺様、アイツは気にいらねぇ」





少年はブツブツと文句を言いながら指をパチンッと鳴らす。
直後、少年の手にコーヒーがたっぷりと注がれたカップが現れた。

当たり前のように、そのコーヒーを飲みながら視線を窓へと向ける。
無限に広がる闇、闇、闇・・・





「まぁ、あの子がコッチに来たら都合が良いのは君ッスよ?クロウサギ」
「フンッ!俺様は一人でも何とかできる。貴様の方が、アイツを必要としているんじゃないか?チェシャ鼠」
「あはは・・・、君程では無いッスよ!」





ケラケラと笑いながらチェシャ鼠は椅子から立ちあがる。
スラリと伸びた華奢な体には似つかないほどの刺青が刻まれている。

魔方陣が描かれているソレは見ている方が気分の悪くなるほどの量だ。






「何処か行くのか?」
「ん?ちょっと便所ッス!」






ハンガーにかけてある黒いコートを羽織るとチェシャ鼠は陽気に部屋を出ていった。
一人残されたクロウサギは大きく溜息を吐くと手に持っていたカップを握り潰す。


バリンッという音と共に、カップの破片が床へと落ちていった。
それを拾おうとしないままチェシャ鼠は懐中時計を見る。

反時計回りで動いているソレは『7時』から『6時』へと刻んだ。






「さぁ、遊びは終わりだぜ?女王の愚臣共め」

















真っ黒な闇に




真っ白な光・・・。





正反対のイロは何を映し出すのか?









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