白雪姫 T








大きな白いお城。
庭には沢山の花や、木が植えられており時折雀の声が庭全体に広がる。
その庭にある薔薇のアーチの下に一人の女性が立っていた。
白い雪のような肌に赤く染まっている頬、優しい雰囲気を醸し出している。


ピヨピヨと鳴いている雀を肩に乗せながら、女性はニッコリと笑った。




「今日も良い天気ね」
「ピヨッ!」





雀も同感とばかりに声を発する。
白い雲に、青い空。
本当に今日は素晴らしいくらいに晴れている。



「白雪姫!!何処にいるの?!」
「まぁ、お母様だわ。」




ドレスの端を掴みながら、急いで声のする方へと向かう。
心なしか白雪姫の顔は先程とは違い悪い。
その理由は自らの母親に原因があるのだ。


以前、白雪姫は母親に毒林檎を食べさせられ死にかけた。
王子のキスがなければ今は生きてはいなかっただろう。




「ごきげんよう、お母様」
「まぁ、こんなところにいたの?」




さも不機嫌とばかりにフンッと鼻を鳴らす女は、白雪姫の母親だ。
漆黒のドレスに身を包んだ母親は、赤いハンカチを出して自らの唇に近づける。




「今日は、御客様が来るのよ。そんな所で遊んでないで早く着替えなさい」




そう言いながら母親は白雪姫のドレスにある皺を伸ばしていく。
その様子に白雪姫は一瞬驚いたが、直ぐにニコッと微笑むと頷いた。



「はい、お母様」












*******














所変わって、チェシャ猫の住む街。



日本の江戸城に似た城の付近に、小さな教会があった。
和風の城の近くに洋風の建物があるのは不思議な光景だ。
小さな教会の地下に、魔方陣と呼ばれる陣が描かれている部屋がある。
そこに、俺はシアンと共に立っていた。




「ここが、時の間よ。シロウサギは後少ししたら来ると思うわ」



シアンの言葉に頷くと目の前にある魔方陣を見る。
白いチョークか何かで描かれたようなソレは魔力が篭っているのか威圧感があった。


手に持っていたステッキを握り締めていると地下の扉が開かれた。
白い耳がシルクハットによって隠されてはいるが、紛れも無いシロウサギが扉の前に立っている。
急いで来たのか頬には薄ら汗が付いていた。




「遅れてしまってすみません」
「あ、気にしなくても良いですよ」




ニコッと俺が笑えば、シロウサギは安心したように手を胸に当てている。
その様子を見ていたシアンはシロウサギがたった今入って来た扉の前まで歩くと手を俺に振った。




「じゃぁ、頑張ってね」
「はい!」




バタンッと扉の閉まる音を確認するとシロウサギは魔方陣に入る。
それに習って俺も一緒に入った。
何の反応もしない魔方陣を不安気に見ているとクスリと隣から笑い声が零れる。




「何ですか?」
「いえ、初々しい反応だと思いましてね。さぁ、呪文を唱えてください」
「へ?」





呪文?

心の中で反復してみたが、呪文など思い浮かばない。
それを見ていたシロウサギはハッとすると再度クスリと笑った。




「申し訳ありません。私とした事が…。呪文を教えるのを忘れていましたね」




俺は、シロウサギが持っている紙をジッと見つめる。
何やら文字が書かれているようだ。


シロウサギは、その紙を俺に渡すと「読んで下さい」と促す。




「『我、時空の導き者なり。
時空の扉よ我の示す場所へ。
現れよ…ホワイト・スノウ・キャッスル』」





次の瞬間、白で描かれていた魔方陣が青色に染まった。
眩しいくらいの光沢を帯びながらそれは一気に俺とシロウサギを包む。



グルグルと目が回ったような変な感覚に悩まされながら、目を細めた。
次の瞬間、鼻に薔薇の良い香りが入ってきた。


細めていた目を開く。




「ここは…?」




白い大きな城が目の前にある。
傍にはシロウサギが立っていた。





「ここが、白雪姫の居城。ホワイト・スノウ・キャッスルです」





シロウサギの言葉に、俺は頷くと扉の方に目を向ける。
そこには一人の女性が立っていた。
黒い髪に、白い肌、赤い頬、皺一つ無い赤色のドレス。





「久しぶりです!シロウサギさん」
「御久しぶりです。白雪姫様」




ニッコリと微笑んだ白雪姫は白い手を俺に差し出す。
それを握って俺は頭を下げた。





「はじめまして、白雪姫」
「はじめまして、チェシャ猫4代目さん。コハンさんや、シアンさん、それから3代目は御元気?」





「元気です」と言葉を言おうとした時、漆黒のドレスを身に纏った女が城から出てきた。
顔に満面の笑みを浮かべている女はシロウサギと俺に頭を下げる。
白雪姫は小さな声で「お母様」と呟いた。




「ようこそ、ホワイト・スノウ・キャッスルへ。どうぞ中に入って下さい。御茶の準備は出来てますよ」




白雪姫の母親は優しい微笑みを浮かべたまま、そう告げると白雪姫を見やる。
何度かアイコンタクトを白雪姫と交わすと、城内へと消えてしまった。




「さぁ、どうぞ」









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