女王様とアリス T












相変わらず虹色に輝く川や、お菓子の家みたいな小屋。
そしてホラー映画に出てきそうな屋敷のある、通り道。
そこに、俺はコハンと共に立っていた。


コハンはニコニコ笑いながら黒いシルクハットを被る。
俺は、それをボケッとしながら見つめていた。





「さぁ、行くか!チェシャ猫クン!!女王様の元へ!」
「少し聞いてもいいですか?」
「?」




ルンルンとスキップを始めている先輩(一応、だが)に冷ややかな視線を送りながら俺は今現在、自分が着ている服を摘む。
白と黒が主に使われている服を俺は着ているわけなのだが…




「何で、チェシャ猫の服って派手なんですか?!」




コハンの服と自分の服を比べると雲泥の差がある気がする。

コハンが着ているのは黒いシャツにジーパンというラフな格好だ、それに対して俺は色々と付属品がついている。
白が主の上着の裾の辺りには黒と白の模様が施されており、黒いズボンのベルトは複雑に絡ませてある。
極めつけは手に持たされているステッキだ。
銀で作られたステッキには猫と天使が描かれており、時々光に反射して七色に光る。
見ているだけなら綺麗なのだが、それを持って歩くとなると恥ずかしいしか思えない。




「似合っていじゃないか」
「そういう問題では!」




あーあ、どうしてこうも、この世界の住人は俺の気持ちをわかってくれないんだ。
一人でも良いから理解者がほしい。


俺が明後日の方を向いていると先程まで首を傾げていたコハンが俺の肩を叩いた。
嫌々、コハンの方を向くと彼は真剣な面持ちで俺を見つめている。




「それよりも、早く女王様の元へ行かないとアリスに叱られる」
「アリスが叱るって」





女王様に叱られるのなら、まだ分かるが何故アリスに叱られないといけないんだ?


俺の心の中で疑問が生まれた。
尚、コハンは俺を急かす。




「マジでアリスは怖いんだ!早く行かないと!!!」
「……」




端から見れば、女王様に怒られると怖がっているシロウサギみたいだ。
このままでは埒があかないので、俺はコハンの後ろについて行った。


向かうは女王様の城。







******











あれから何分歩いただろうか。
周りの風景は洋風なモノから和風のモノへと変化しているような気がする。


いや、事実、変化しているのか。


そんな退屈な事を考えていると、コハンが俺の肩を数回突っつく。
そして一つの建物を指差した。




「うわぁ」




俺の口から零れたのは、ただそれだけだった。


ピンク色の髪をしている大人の女と黒い髪をしている大人の男が門前に立っている。
建物を見ると、洋風の城ではない。
和風の城が、当たり前のように建っていた。
昔、修学旅行とかで見た江戸城に似ている気がする。




「あー!コハンと知らない男の子発見!!」
「本当。彼、誰?」




ピンクの髪をしている女は嬉しそうに笑うとコハンに抱きつく。
視線だけは俺に向いていた。
男の方はギロッと俺を睨むと腰に挿していた刀に手を置く。




「あぁ、ハーティア、クロバ久しぶりだな。彼は4代目チェシャ猫クンだよ」




コハンの満面の笑みにハーティアは髪と同じ色に頬を染めると「ふぅん」と呟いた。
可愛らしく手を俺に差し出す。
握手をしろ…と催促しているよりは、手の甲にキスをしろと言っている感じがするのは気のせいか?




「私、ハーティア。こっちはクロバ。」




ハーティアの言葉にクロバはフンッと鼻で返事を返す。
俺も顔に笑顔を貼りつけて、自己紹介をしようと口を開いた。


その直後、コハンが城へとズカズカと入っているのを見つけた。
あの人は何をしているんだ!!




「おーい!先に行っちまうぞ!」
「はぁ?!」




チラリと俺を見るとコハンは肩を竦めてみせる。
その様に米神をピクピクと痙攣させながら、俺はハーティアの手を握り返さずコハンの後に付いて行った。






「あーあ、行っちゃった」





少し残念そうに眉を眉間に寄せたのはハーティアだった。
もう、チェシャ猫とコハンは城の中へと消えてしまっている。




「それにしても、あの新しいチェシャ猫。少し危ないかもね」
「スペア、チェシャ猫自体、嫌悪。チェシャ猫危険」




クロバの言葉に同意するかのように、ハーティアは握り返されなかった手を見つめた。
少し小麦がかった手にハートの刺青がしてある。
よく見れば、クロバの額にはクローバーの刺青があった。




「何事も起こらなければいいんだけどね」



















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