君がチェシャ猫 U
「どういう事か、初めから説明してください」
フワフワのソファの上。
俺はソコに座りながら目の前にあるミルクを口にした。
何故、シアンやコハン…チェシャ猫3代目は紅茶やコーヒー、オレンジジュースなど思い思いのを飲めているのに、俺だけミルクを飲まなきゃいけないんだ?
そんな疑問を胸に抱きながら俺は目の前の3人を見つめた。
「そうだな。それを説明しないと流石に君も混乱するな。
まずはじめに、この世界は君が今まで暮らしていた世界とは別世界だと言っておこう。」
コハンはコーヒーをガラスのテーブルの上に乗せて、さも当たり前のように言った。
そう…さも当たり前のように。
「別世界って!!」
「まぁ、落着いて聞けよ。この世界に来たってことは、もう元の世界へ戻る術は一つの方法を除いて他には無い。戻り方については1番最後に話すから怒らず冷静に聞け」
コハンの話はこうだった。
この世界は俺がいた世界とは全く違う。つまり異世界。
しかも不思議の国のアリスが元になっている世界だ。
だから、チェシャ猫がいるし女王様もいる。
勿論アリスも現在、この世界に住んでいるらしい。
チェシャ猫は主に、ここでは『導き』と『探索』の任を担っている。
『導き』というのは、誰かが間違って迷い込んだ時に正しい世界へ帰すことをしたり、女王様やアリスのために別の世界へ案内する役目らしい。
『探索』というのは、女王様やアリスの命によって行なわれるものであり、別の世界に実際に行き調べ、報告書を書き提出する役目だ。
そのチェシャ猫は仕事が大変忙しい事もあり、ある一定の時期が来ると交代できるシステムになっている。
コハンの次がシアン。シアンの次が現在のチェシャ猫3代目。そして次に、その役目が来るのが俺らしい。
つまり、俺はチェシャ猫4代目に当たるわけだ。
ちなみに、チェシャ猫の任が解かれると自分自身で思い思いの名をつけることができる。
今のチェシャ猫3代目も俺がチェシャ猫4代目の『交代の儀』と言うのを行なえば名前をつけられるらしい。
だから、あんなにも嬉しそうにしていたのか…と今更ながら納得した。
「それで、さっきシアンさんやコハンさんが言っていた青色と灰色が似合うって会話は俺の猫耳と尻尾の話なんですね」
「そういうことだ」
一通り俺が理解出来たのを知ってコハンは嬉しそうに笑う。
その様子を見ていたシアンは咳払いを一回すると白い指をピンッと立てた。
「それで、次は貴方が元の世界に帰る方法なんだけれど」
「はい」
シアンの言葉を聞いて急いでメモの準備をする。
俺は帰りたい。
こんなわけのわからない、変な世界で、変な奴等と一緒になんていられるか…ッ!
「女王様とアリス両方に嫌われるコトが条件の一つ。それで、この世界に来ることを永遠に追放してもらうのよ。」
「はぁ?!」
アリスと女王様に嫌われて追放してもらわなければならない!?
でも、これは1歩間違えたら俺の首が消えるかもしれないってコトじゃないのか?!
「だから、帰るなんて考えないほうが良いと思うわ。貴方の首が無くなるかもしれないのよ?」
シアンは蒼白な俺を心配そうに見つめながら気の毒そうに言葉を発する。
コハンやチェシャ猫3代目はシアンとは違い目を輝かせている。
一体、なんなんだ?
「と、いうわけだから!お前の耳と尻尾用意してもらうからな!」
「僕も自分の名前早く考えよっと!」
ルンルンとスキップをしているチェシャ猫3代目を物凄い勢いで睨んで俺はソファから立ちあがった。
冗談じゃない!!
何で、俺がこんな目に合わないといけないんだ!!俺は…普通に元の世界で暮らしていただけなのに!!
「ちょっと!何処に行くんだよ!!」
チェシャ猫3代目が困ったような声を発しながら俺の腕を掴んだ。
幼い小さな手を俺は振り払って部屋から飛び出した。
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